た。その傍に青年が二人立っていた。
「厭なの? も媚《こび》にならなくちゃ、ね。」
こう一人の青年は言っていた。
「もともとこの芝居は『媚を売る街』というので、媚を売らなければ生活の出来ない女性という感じが来なければ、このプロレタリア劇は失敗なのだからね。いいかね、君は、昨夜は大へんうまかったが、今夜は、それを言うのに、なんか少しおどおどしているよ。」
三枝子は、もうどうしていいかわからなかった。併し、静枝の帰るのをそこで待っていようと思った。
「君も、これで生活をして行こうと思うんなら、身を入れてやって下さい。」
こう言われて、静枝は涙含《なみだぐ》んでいるようだった。誰も楽ではないのだ! 社に居残って仕事をするのと同じように、こうして幾晩も稽古をしては舞台に出るのだ! そしてもらった報酬で社からもらった給料を補って来ているのだ! と三枝子は、苦しい気持ちで窓の中を見続けた。
「じゃ、もう一度やって見て下さい。」
静枝はそこへ坐った。
「おい! 三枝さんかい? 何を見ているんだい?」
振り返って見ると、そこに、疲れ切った彼女の夫が立っていた。声を立てられない立場から、三枝子
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