接吻を盗む女の話
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)退《ひ》ける
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)足|許《もと》まで
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)よたよた[#「よたよた」に傍点]
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一 街裏の露地で
社は五時に退《ひ》けることになっていた。
併し、鈴木三枝子は大抵《たいてい》の日を六時か六時半まで社に残るのだった。別に仕事はしなくてもタイム・レコードで居残り割増金をくれることになっているからだった。
鈴木三枝子は、昼の仕事をなるべく残すようにして置いて、居残りの時間をつくるようにした。地方の読者への勧誘状を書いたり、問い合わせに対する返事を書いたりして、彼女はどうかすると、八時頃まで残ることさえあった。
或る出版会社に勤める彼女の僅かばかりの月給では、夫の失職中、そうでもしなければ、一家の生活を支えてゆくことがとても出来ないのだった。
その日も三枝子は七時まで社にいた。日曜の前日という気
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