」
「いや、ちょっと!」
彼はそう言いながら彼女の指に指環を嵌《は》めてみた。併し指環は固くてどうしても嵌《は》まらなかった。
「どうなさるんです?」
彼女は彼の顔を怪訝《けげん》そうに視詰めた。
「やっぱり君の指も、駄目だね。綺麗は綺麗だが……」
彼は彼女の手を投げ出すようにした。彼女の指は、節が高いばかりでなく、彼の理想と合致するためにはあまりに短かった。
「駄目ですわ。私の指は節が高くて。」
「少し短いね。もう少し細くて長いと、この指環を嵌めてやるんだが……それに爪が……」
彼は眉を寄せるようにしながら、掌の中に指環を振り転がした。
「まあ! そんな立派な指環を? そんな綺麗な……」
「指環が立派過ぎると、結局、立派な指というものが無くなるんだ。馬鹿馬鹿しい。」
「ここに一人、綺麗な指の人がいるわ。そりゃ、とても素敵な指よ。もう少しすると来るわ。」
「よし! その人が来たら会わしてくれ。本当に綺麗な指をしていたら、この指環を上げよう。どうせ綺麗な指に嵌めてやろうと思って買って来た指環なのだから……」
彼は軽い興奮の表情でカクテルのグラスを唇に持って行った。
彼は最早
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