んだ、こんなことか、どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったろう。
彼は大急ぎで玄関まで飛び出した。が、ふと思いついて、アパートの電話室に飛び込んだ。そして、自分の勤めている雑誌社を呼び出して、その雑誌の、映画に関する記事を専門に担当している寺尾という記者を呼び出した。
さいわい寺尾は在社中だった。津村は、今すぐ、社に出かけて行くから、外出しないで待っていてくれるように、とたのんで、アパートの前から円タクを拾った。
「何だね、ばかにあわてて」
寺尾は、手持無沙汰に津村を待っていた。
「君、スチールを見せてくれ。女優のスチールだ」
「スチールと云ったって、沢山あるんだから。誰の写真を探すのかい?」
「それが分ってるくらいなら……」
「すこし変だぜ」
と、云いながら、寺尾は一抱えのスチールを戸棚から取出した。
ペラペラとめくって行くと、五十何枚目かに、たずぬる写真はあった。――たしかに、あの洋装の女と同一人だ。
「これだっ! これ、これは何という女優かね?」
「三映キネマの如月真弓《きさらぎまゆみ》という女優だよ。今、やっと売り出しかかっている女優なんだ。そら、いつか、君と観に
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