時、その洋装の女をどこかで見たような女だがと直感したんだ。しかし、いつどこで会ったのかどうしても思い出せない。ところが、あの事件――宮部京子事件の日、上野の発明博覧会場から、星田と津村と三人で、件の男女の後をつけて行く自動車の中で、ふっと僕は思い出したんだ。これは素晴らしい! と、誰もいなかったら、僕は叫び出したかも知れない。僕は内心の興奮をおさえて、理由を構えて二人と別れた。そして、後々の言い訳のために、本石町の医療機械屋にちょっと寄って、それから、真直に家に帰って、切抜帳をひっくり返して見たんだ」
「誰なんだ、その女は?」
 たまらなくなって、二木検事は先を急いだ。
「浦部俊子《うらべとしこ》」
「浦部俊子? あ、あの――馬鹿な。あの女性は君、死んでいるんだよ。君、君ァ、すこしどうかしていないか。それとも浦部|伝右衛門《でんえもん》の娘の浦部俊子とは別の――とでも云うのかね」
「なんの、なんの。山川牧太郎に五万円かたられた[#「かたられた」に傍点]浦部伝右衛門の娘の浦部俊子さ。成程、あの五万円は浦部伝右衛門の財産の殆んど全部だった。そして、そのために、俊子の縁談がこわれてしまって、
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