おもて》に現わすことを制した。その女性が、二木検事の妻と決した時も、村井は、内心の口惜しさを堪《こら》えて、二木夫妻の幸福を祝福したくらいだった。
そういう次第で、『あづま日報』が、当局の無能を攻撃する度に、二木検事は、何故か、『あづま日報』の社会部次長として、事実上社会部の実権を握っている村井に、二木検事自身が、揶揄《やゆ》されているような気がしてならないのだった。
しかるに、村井は何故、星田代二と山川牧太郎が同一人であるという、当局の鼻を明すに十分な特種をつかみながら、それを逸早く『あづま日報』紙上に掲載しなかったろうか。そして、それを、宮部京子事件の担任検事である二木検事の手柄にしようとしたのであろうか。――二木検事のような人物にとって、このような仕打は非常に大きな侮辱であること、従って、このことは、村井にとっては、恋愛に破れて以来の、深刻な紳士的復讐を意味するのだった。
「打明けて云えば、先刻《さっき》君から電話がかかって来た時、僕は君の確信ありげな主張をあざわらう気持だったが、こころみに前科調書をつくって見ると、指紋がぴったり適合するではないか。あの時、ずらかる前に、うっ
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