千葉房枝は頭が痛むというので教室に休んでおりました。そして彼女は、見るともなしにわたしが吉川訓導の洋服のポケットを探っていたのを目撃して、わたしが何かものを取っているものと思ったのでございます。そしていよいよ蟇口のなくなった騒ぎになりますと、純情な彼女はわたしを案ずるのあまり、とうとう脳貧血を起こして倒れたのでございます。それを、なんと愚かなわたしの錯覚でございましたでしょう? きっと彼女がその蟇口を取ったものと思い込み、まるで拷問にかけるようにして訊こうとしたのでございます。しかし、純情であくまでわたしを慕っていた彼女は、とうとうわたしを罪人にすることができずにみずから自分の身を殺していったのでございます。(千葉房枝の純情は、彼女が彼女の父親に書き残した手紙をお読みくださいませ)
そして、千葉房枝がわたしの名誉を気づかいながら書いた遺書によりますと、吉川訓導の蟇口はわたしが取ったことになっておりますが、前にも申し上げましたように、それは、わたしがポケットから手紙を取ったのを目撃した彼女の錯覚で、実はわたしでもなかったのでございます。その名誉はわたしが死をもって証明すると同時に、さら
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