が、みんな不思議そうな、訝《いぶ》かる眼で、どこからか風に吹きとばされて来たように、突然私達の側《そば》へ寄って来たこの上品な容貌の老人を見た。
「この寺には、和尚さんはいるのかな。」
老人は私に訊いた。眼が怖ろしいほどぎらぎらと光っていた。
「おります。」
こう言って、私はおそるおそる老人の顔を見た。老人は、何か長い丸いものを風呂敷に包んで、鉄砲を担《にな》ったような具合に、細い紐で背負っていた。
他の子供達が、私の側へ駈け寄って来た。老人は、ちょっと首を曲げたようであったが、すぐに庫裡《くり》の方へと立ち去った。私達はその後から、ぞろぞろとついて行った。
「お頼《たの》ん申す。」
老人はこう言って庫裡の入り口を開けた。この、「お頼ん申す」という言葉は、私達にとっては、非常に珍しいものであった。おそらく私達には、初耳であった。講談かお伽噺《とぎばなし》に出て来る人でなければ、この辺では、そういう言葉を使う人はなかった。
焼和尚は、入り口の茶の間で、長い煙管《きせる》で煙草を燻《くゆ》らしながら手を焙《あぶ》っていた。
「御迷惑じゃろうが、泊《と》めてもらえますまいかな?」と
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