、米問屋の主人は幾枚かの紙幣《さつ》を握って、すぐ戻って来た。そしてその紙幣を、嘉三郎の前へ置いて序《ついで》にその横から細長い包みを取った。嘉三郎は、自分の前に置かれた何枚かの紙幣を、数えても見ずに袂《たもと》の中へ押し込んだ。
「立派なものだなあ。」
 鞘《さや》を払って刀身《とうしん》を凝《じ》っと眺めながら米問屋の主人は言った。
「何ぶんにも大業物《おおわざもの》ですからな。」
「嘉三郎さん! 今日中に送るのなら、早く行かないと、郵便局が閉まりますで。待っていなさるんだべが……」
「それさね。」
 嘉三郎はそう言いながらも、悠長に立ち上がって、泥濘《ぬかるみ》の往来へ出たが、何故かもう、汽車で行く気にはなれなくなっていた。

     四

 高清水へ着いたときにはもう薄暗くなっていた。嘉三郎は、以前、商用で何度も来たことがあったが、詳しくは知らなかった。それに、素面《しらふ》で会うのも、何となく厭《いや》な気がした。嘉三郎は町外《まちはず》れの居酒屋に這入《はい》った。
「冷《つめ》てえのを茶碗でくんねえかね。」
 嘉三郎はぽっそりと言った。同時に、二三人の客の眼が、嘉三郎の
前へ 次へ
全16ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング