だ結婚さえ許してくれないのですもの。それよりも、お父さんが私達の結婚を許して下さるといいと思うわ。そしたら、私、死んでもいいわ。私もうそれだけよ」
「馬鹿な。僕が困るじゃないか。近ごろ少し肥《ふと》ったじゃない? どれ手を……」
貞吉は秋子の手を自分の膝の上に取った。
「肥るわけないじゃないの」
汽笛が高らかに響き渡った。獣類の吼《ほ》えるように、唸《うな》るような余韻を引いて、そして機関車はもくもくと黒煙をあげながら麦畑の中を堤《つつみ》の上を突進して来た。
「あら! あの機関車は、お父さんが乗っているのよ」
秋子は堤草《どてくさ》に身体をすりつけるようにして小さくなり顔を伏せるのだった。貞吉はあわてて彼女の手を解《ほど》いた。直通列車が凄《すさ》まじい速力で囂々《ごうごう》と二人の頭の上を過ぎて行った。
「どうして判《わか》る?」
「だって、あの汽笛は、お父さんの鳴らす汽笛なんだもの、そりゃ直ぐ判るわ」
秋子は顔をあげて列車を見送った。
「汽笛で判るかい? ほんとに?」
「判るわ。よく判るわ。鳴らす人によってみんな違ってよ。お父さんの汽笛はああいう吼えるような唸ような長い音
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