汽笛
佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)柴田貞吉《しばたていきち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)線路|伝《づた》いに

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。
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 改札孫の柴田貞吉《しばたていきち》は一昼夜の勤務から解かれて交代の者に鋏《はさみ》を渡した。朝の八時だった。彼は線路|伝《づた》いに信号所の横を自宅へ急いだ。
「おーい! 馬鹿に急いで帰るなあ」
 信号所の中から声をかけたのは彼と同じ囲いの官舎にいる西村《にしむら》だった。彼は振り返って微笑《ほほえ》んだ。突然で言葉が出なかったのだ。
「細君はどうなんだ? 幾分かはいいのか?」
「同じことですね。起きてはいますけれど……」
「起きてるのなら、散歩にでも連れて出てみるんだな。あんまり家の中にばかりいるのも、身体のためじゃないぜ」
 西村はそう言いながら転轍機《てんてつき》の傍《そば》へ近付いて行った
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