屋にかかっていることになっているんだから」
「正勝ちゃん!」
紀久子は低声ながら、叫ぶようにして言った。
「紀久ちゃん! 大きな声をしちゃいけねえ!」
正勝は押しつけるように鋭く言った。
「わたしを助けて……」
「おれの言っているのが分からないのか? おれは自分のためにばかりやっているのじゃねえんだ。いいか、蔦代が殺したことにして、蔦代がそのうえに紀久ちゃんまで殺そうとして追い回したから、紀久ちゃんは鉄砲のある部屋へ逃げていって、そこに弾丸を込めたままかけてある鉄砲を取って思わず撃ってしまったことにすれば、それでいいんだ。それで紀久ちゃんは立派な正当防衛になって、罪にはならねえから」
「…………」
「紀久ちゃん! 分かったかい?」
「え!」
紀久子は微かに頷《うなず》いた。
「それじゃ、こ、こ、これからおれがその準備をするから、支度が出来上がるまで、紀久ちゃんは動いちゃいけねえ。支度ができてから、その寝巻のままで起きて、隣の部屋へ行って鉄砲を撃つんだよ。そして、そこに、みんなが、鉄砲の音を聞いて集まってくるまで、じっとして立ってれば、それで何もかも済むのだ。いいか? それで分かっ
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