思っているのか?」
「そんなことがおれと何の関係があるんだ?」
「関係がねえ? 関係がねえと思ってんなら教えてやらあ」
「馬鹿野郎! それをおれに教えるっていうのか? てめえのお袋は、てめえの親父《おやじ》が死んでから生活に困って、自殺をしたんだぞ。そんでてめえらは、干乾《ひぼ》しになってしまうところだったんだ。その干乾しになってしまうのを、いったいだれが助けてやったと思ってんだ?」
「それじゃいったい、おれらのお袋を自殺させたのはだれなんだ」
「そんなことをおれに訊《き》いたって分かるか?」
「それじゃ教えてやろう。おれらのお袋は、きさま! きさまのために自殺したんだぞ」
「なんと? おれのために自殺をしたって?」
 喜平は驚異の目を瞠《みは》りながら叫んだ。
「黙っていりゃ吐かしやがる?」
 喜平はそして、いまにも掴《つか》みかかろうとするような形相さえ示した。しかし、正勝は喜平の顔に向けてぐっと目を据えたまま、身動《みじろ》ぎもしなかった。喜平は鞭を取って、ぴしりと強く書卓の上を打っただけだった。
「馬鹿野郎め、育てられた恩を忘れやがって!」
「大変な恩だ。こっちから言わせりゃあ
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