お父さまこそひどいわ。正勝さんのために言ってやるわ)
 紀久子はひどく昂奮《こうふん》しながら、母屋のほうへ駆けだした。

       7

 天井の高い四角な部屋だった。卵色の壁には大型のシェイフィルド銃と、古風な村田銃との二|梃《ちょう》の猟銃が横に架けられてあった。その下前には弾嚢帯《だんのうたい》が折釘《おれくぎ》からだらりと吊《つ》るされていた。そして、部屋の隅には黒鞘《くろざや》の長身の日本刀が立てかけてあった。床には大きな熊《くま》の皮が敷いてあった。その熊の皮を踏みつけて大書卓がガラス窓の下に据えられ、中央には楢《なら》の丸卓と腕つきの椅子が四つ置かれてあった。
「そこへかけろ!」
 鞭でその楢材の腕つき椅子を示しながら、喜平は怒鳴るように言った。正勝は静かに腰を下ろした。そして、将棋の駒《こま》のように肩を角ばらせて顔を伏せた。
「正勝! てめえは浪岡を幾らぐらいする馬か、知っているか?」
 喜平は書卓の前の回転椅子にどっかりと腰を据えながら言った。
「…………」
 正勝は静かに首を振っただけで、なにも言わなかった。
「知らねえ? しかし、てめえだって何年となく牧場
前へ 次へ
全168ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング