、正勝がこの牧場から姿を消すというのならどんなことでもしてやりたかった。そして、彼女は正勝が早く厩舎へ帰ってくるのを待った。
(この金さえ渡せば、あの人はすぐもうこの牧場からいなくなるのだわ)
 やがて三頭の馬は一頭の新馬を拉《らっ》して、厩舎を目指して帰ってきた。紀久子は正勝の花房が真っ先に帰ってくることを願った。ところが、花房は途中で木の根に躓《つまず》いて跛を引きだした。
(あら! あの人はまたお父さまから叱られるのだわ)
 紀久子は自分のことのように心配になった。いまの彼女にとって、自分が叱られることよりも正勝が叱られるのはもっといやなことだった。恐ろしいことだった。
(わたしどうしようかしら?)
 紀久子は心臓の熱くなるのを感じながら、厩舎の前から放牧場のほうへ出ていった。
(わたしはあの人の身代わりになろう。花房の脚を折ったのは、正勝ではなく、わたしだということにしよう。わたしが花房に乗って駆けているうちに、花房が躓いて転んだのだと言えば、お父さまは叱らないに相違ないから。そして、ついでに金を渡してしまえば、あの人はこの牧場から姿を消してしまうに相違ないから)
 紀久子はそ 
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