うへ出ていった。続いて黒馬が走った。厩舎の前にぐるぐると円を描いて出足の鈍っていた最後の栗毛は、胴にぐっと拍車の強い一撃を食らって急にぴゅーっと駆けだした。そして、たちまちのうちに黒馬を抜き、葦毛の花房を抜いて走った。それを見て黒馬が走り葦毛が駆けだし、三頭の馬は土埃《つちぼこり》を掻《か》き立てながら、毬《まり》のようになって新道路を走った。
やがて、毬のようになって土埃の中に掠《かす》れていた三頭の馬は、道路から草原の中へと逸《そ》れていった。
春楡と山毛欅とが五、六本、草原に影を落として空高く立っていた。その下に小笹《こざさ》が密生していて、五、六頭の放牧馬が尾を振り振り笹を食っていた。栗毛と黒馬と葦毛の三頭の馬はV字形の三角形になって、その一団の放牧馬を襲った。人に慣れていない放牧馬はそれを見て、雲のように四散した。
「浪岡《なみおか》だぞ! 右へ逃げたその葦毛の……」
正勝はそう叫びながら、首を上げて逃げていこうとする新馬の右手へと、半円を描くようにして走った。そして、三間(約五・四メートル)ばかりの距離にまで追い詰めると、肩にかけてある細引を取ってその右斜め後ろから投
前へ
次へ
全168ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング