がまんして、東京へ出ていったほうがいいと思いますから、わたしは決心してしまいました。兄さんにだけは相談してからと思ったのですけど、兄さんはきっと止めると思いますし、止められては、わたしも兄さんもこのまま一生不幸に終わってしまうのですから、兄さんにも相談しないで、わたしは一人で決心しました。わたしのことは死んだものと思って、どうぞ捜さないでください。そのうちわたしも兄さんも幸福に暮らしていけるようになったら、わたしはきっと手紙を出します。そして、兄さんを東京へ呼びます。そして、兄さんをきっと幸福に暮らさせてあげます。わたしも兄さんも、このままでいたのでは、一生たったって幸福にはなりません。兄さんは一生たったって下男でいなければなりませんし、わたしは女中奉公をしていなければならないのですもの。わたしはそれを考えると悲しいのです。兄さんと別れていくのも悲しいのです。けれど、それはほんのちょっとの間のことです。二年か三年のうちには、わたしはきっと、兄さんに手紙を出して東京に呼びます。それまでは捜さないでください。わたしはどこにいても、毎日毎日兄さんの幸福を祈っています。わたしのことは死んだもの
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