とがあるんだ? 考えてみなあ。おまえだってもう十八じゃないか? おまえをいつまでも子供にしておこうと思って、そんな子供のような身装《みなり》をさせているんだろうが。奴隷じゃあるまいし、十八にもなってあいつらが勝手な真似《まね》をするのをその前に立って……馬鹿なっ! そんな馬鹿なことってあるもんか。おまえの好きな人が東京にいるんなら、構わねえから東京へ行ってしまえ。おれもあとから行くし、早く、さあ、いまのうちに逃げてしまえ」
「だって、いま逃げたら、また兄さんが怒られるわ。逃げるにしても一度帰って、それからにするわ」
「おれのことなんか心配するなったら!」
「だって……」
「それじゃ、帰り道にあの原始林にかかったら、隙《すき》を見て馬車から飛び降りるといいや。そして引っ返せば、ちょうどこの次の汽車に間に合うから」
「いいかしら?」
「構うもんか。おまえが馬車から飛び降りてしまったら、おれは馬車をどんどん急がせるから」
「でも、お嬢さまが兄さんに、捕まえておいで! っておっしゃらないかしら?」
「言ったって、だれがおまえを捕まえてきて苦しめるようなことをするもんか。おまえはおれのなんだ? 
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