の意志があるのだ。あいつらのわがままが、おれたちの生命を懸けての意志までも押し曲げることができるものか)
 だいいち正勝にとって、帰り道での計画を果たすのにたとえ妹にもしろ、他人にいられては具合が悪かった。
(蔦代が森谷の家を出ていこうというのなら、おれの力で蔦代を逃がしてやろう。なにも、あいつらの思いどおりになっていなければならないということはないのだから)
 正勝は黙々として、妹の蔦代をいかにして逃がしてやるかについて考えつづけた。

       5

 馬車は間もなく市街地に入った。柾葺屋根《まさぶきやね》の家が虫食い歯のように空地を置いて、六間(約一〇・八メートル)道路の両側に十二、三軒ほど続くと、すぐにもう停車場だった。馬車は駅前の椴松のところで停まった。
 汽車はもう時間が迫っていた。
「正勝! 蔦やに逃げられちゃ駄目よ。わたしが戻ってくるまでちゃんと看視していてね。すぐだから」
 紀久子はそう言いながら、ひらりと馬車を降りた。そして、彼女は敬二郎を促し立てるようにして停車場の中へ入っていった。
「ちぇっ!」
 正勝はそっぽを向いた。紀久子と敬二郎との後姿をじっと見詰めて
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