るんだね?」
「おれが言わなくても、紀久ちゃんが三、四日うちに帰るから、それまで待っているんだね。おっとどっこい! 無罪に決定! 無罪に決定!」
 正勝はそう言って、ふたたび踊りだした。
「正勝くん! それはそれとして、それじゃ、早く一緒に行ってくれ」
「熊か? おれはご免だ。紀久ちゃんが帰ってこねえうちに、熊と間違えて殺されたりしちゃ困るからなあ。だれかほかの奴を連れていけよ。おれは前祝いでもしてくるから。おっとどっこい! 無罪に決定だ! 無罪に決定! 無罪に決定!」
 正勝はそう叫びながら、踊るような足つきで敬二郎の前を離れていった。

       3

 開墾場を貫通する往還を挟んで、五、六軒ばかりの木羽屋根《こばやね》の集落があった。森谷牧場と森谷農場とを目当てとしての、つまり、牧場と農場での労働に身体《からだ》を磨《す》り減らして余生を引き摺《ず》る人々によって形成されている、唯一の商業集落であった。雑貨店・雑穀屋・呉服店、小さな見窄《みすぼ》らしいそれらの店の間に挟まって、一軒の薄汚い居酒屋があった。
 正勝は踊るような足つきをしながら、その居酒屋の中へ入っていった。
 
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