二郎は目を瞠りながら言った。
(正勝の奴へ? 正勝の奴へいったい、どこから電報など来るところがあるのだろう?)
敬二郎の軽い驚きの中には、嫉妬《しっと》の気持ちさえ加わってきていた。
「正勝さんへ来たんですがね」
電報配達夫は、それでも小さな赤革の鞄《かばん》の中から電報を取り出した。
「だれのでもいい、貰《もら》っておこう。正勝は放牧場のほうへ行っているから」
「それでは、あなたから渡してくださいね。頼みますよ」
電報配達夫はそう言って敬二郎の手に電報を渡してしまうと、すぐまた自転車に跨《またが》って凸凹の道を帰っていった。敬二郎は電報を手にして、じっと電報配達夫の後姿を見送った。電報配達夫は間もなく放牧場の外周を繞《めぐ》っている高い土手の陰に消えた。敬二郎はそこで、放牧場の中に正勝の姿を探した。しかし、正勝はどこにも見えなかった。
敬二郎は厩舎《きゅうしゃ》の中へ引き返した。そして、彼は激しく躍る胸をじっと抑えるようにして、その電報を開いた。
(=ムザイニケツテイ 三四カウチニカエル キクコ=)
電報にはそうあった。
敬二郎の心臓は裂けるほど激しく、湯のような重い熱を
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