蔦の奴だ。蔦の奴は、お嬢さまに手向かったに違《ちげ》えねえ。そんで、お嬢さまに鉄砲で撃ち倒されたのに違えねえ」
「蔦代さんが、また、どうして……」
「何かひどく恨んでいたらしいから。しかしまあ、こんで、仕様ねえ。夜が明けて警察から来るまで、こうしておくべ」
正勝はそう言って、隣室へと歩きだした。牧夫たちはそれに続いた。
「お嬢さま! どう、どうなすったんです?」
正勝は紀久子の傍へ寄りながら、目を瞠《みは》って訊《き》いた。
「蔦が……蔦が……」
紀久子は歯の根が合わないまでに、顫えていた。
「旦那を殺したのは蔦だってこと、はっきりと分かるけれども……」
正勝はそう言いながら紀久子の手から猟銃を取って、そこの壁に立てかけた。
「蔦が、蔦が、わたしも……」
紀久子はようやくそれだけを言った。
「蔦があなたにも手向かったんですね」
紀久子は微かに頷《うなず》くようにした。
「しかし、こうしていたって仕様のねえことだし、あなたが何より寒くって仕様がねえだろうから、あっちへ行って夜の明けるのを待つより仕方がねえでしょう」
正勝はそう言って紀久子の背中に手をかけ、廊下のほうへ出た。牧夫たちは土足のままで、ぞろぞろとその後に続いた。
4
牧夫たちのための食堂になっているコンクリートの土間の、片隅の壁際に石と粘土とで竈《かまど》のように畳み上げられてあるストーブには、薪《まき》が幾本も幾本も投げ込まれた。そして、牧夫たちはその焚《た》き口の前に車座になって腰を据えていた。紀久子はその中央の火に近いところへ、席を空けられた。
「婆や! 婆や!」
正勝は冷えびえしい沈黙を破った。
「婆や! お嬢さまに着物を持ってきてあげろよ」
正勝は周囲を目探りながら叫んだが、婆やの姿はどこにも見えなかった。
「婆やは、どこかに腰を抜かしているのかもしんねえぞ」
だれかが言った。それにつれて、初めてようやく微かな笑いが崩れた。
「仕様のねえ婆やだなあ。それじゃ、おれが行って持ってくるかな」
正勝は身動《みじろ》ぎながら言った。
「いいわ」
紀久子は微かに言って、止めた。
「寒くて仕様がねえでしょう?」
「我慢しているわ」
「我慢をしなくたって……」
正勝がそう言って立ち上がろうとしたとき、廊下のほうから腰を引くようにして婆やが出てきた。
「あっ! 婆やが
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