うへ出ていった。続いて黒馬が走った。厩舎の前にぐるぐると円を描いて出足の鈍っていた最後の栗毛は、胴にぐっと拍車の強い一撃を食らって急にぴゅーっと駆けだした。そして、たちまちのうちに黒馬を抜き、葦毛の花房を抜いて走った。それを見て黒馬が走り葦毛が駆けだし、三頭の馬は土埃《つちぼこり》を掻《か》き立てながら、毬《まり》のようになって新道路を走った。
 やがて、毬のようになって土埃の中に掠《かす》れていた三頭の馬は、道路から草原の中へと逸《そ》れていった。
 春楡と山毛欅とが五、六本、草原に影を落として空高く立っていた。その下に小笹《こざさ》が密生していて、五、六頭の放牧馬が尾を振り振り笹を食っていた。栗毛と黒馬と葦毛の三頭の馬はV字形の三角形になって、その一団の放牧馬を襲った。人に慣れていない放牧馬はそれを見て、雲のように四散した。
「浪岡《なみおか》だぞ! 右へ逃げたその葦毛の……」
 正勝はそう叫びながら、首を上げて逃げていこうとする新馬の右手へと、半円を描くようにして走った。そして、三間(約五・四メートル)ばかりの距離にまで追い詰めると、肩にかけてある細引を取ってその右斜め後ろから投げかけた。手繰っては投げ手繰っては投げかけた。葦毛の新馬浪岡は驚いて逃げ回った。細引は容易にかからなかった。正勝は何度も投げかけた。そのうちに、細引がくるくるっとその新馬の肩から胴に入った。
「早く早く! 早く」
 正勝は叫びながら細引を引いた。その瞬間、巻き付いた細引の解かれるまでの間を、馬は縛られた形になって動くことができなかった。その機に乗じて平吾は黒馬を飛ばし、その新馬浪岡の左斜めから鬣《たてがみ》に飛びつき、首に綱をかけた。
「オーライ!」
 黒馬はそして、首に綱をつけられて逃げ回ろうとする馬を引き摺《ず》るようにして斜面を駆けだした。
 正勝は花房に※[#「足へん+鉋のつくり」、第3水準1−92−34]を踏ませながら、馬上で細引を輪に巻いた。そして、細引を手繰り終わると厩舎を目がけて正勝は、ぐっと拍車を入れた。栗毛がそれに続いた。栗毛は最初のうちは花房と五間(約九メートル)ばかりの距離を保っていたが、胴に拍車の一撃を受けると急に駆けだして、花房の右を抜こうとした。若い葦毛の花房は、それを見ると、急に一足跳びに移った。胴をぐっと伸ばして、放牧場の草原の中を一直線に走った。正勝
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