りにして不真実なる愛を蹴《け》って真実の愛の世界に幸福を求むべきです。それが、わたしからあなたへの最後の言葉です。
 最愛の紀久子さん! 法律のうえから言っても、森谷家の財産は養子としてのわたしが継ぐことになっているのですから、それを正勝になどは決して継がせずに開墾地の人たちへ返してやってください。正勝の口から言わしても、当然のこと開墾地の人たちが受け取るべきだという財産が、開墾地の人たちの手に渡らず、正勝の手に渡るようでは、わたしはとても死に切れません。それだけはくれぐれもお願いします。
 最愛の紀久子さん! 最後まであなたを愛し、なおかつ今後のあなたの幸福を祈りながら。

 黙って二人は顔を見合わせた。
「馬鹿なことを言いやがって……」
 正勝は侮蔑《ぶべつ》の微笑を含みながら吐き出すように言って、紀久子の肩へそっと手を回した。
「何を言ったところで、奴が死んでしまえばおれと紀久ちゃんの世界さ」
「それはそうだわ」
 紀久子は低声に言いながら、遺書を畳んだ。
「馬鹿な奴だなあ、こっちの壷《つぼ》に嵌《は》まって自殺をしてしまいやがったじゃないか。おれと紀久ちゃんとの間には、子供のときから婚約があるんだ」
 正勝は微笑《ほほえ》みながら言って、急に紀久子の唇を求めようとした。
「ここじゃ駄目だわ。あちらへ行きましょう」
 紀久子は微笑をもって優しく言った。
「あちらってどこだい?」
「わたしの部屋へ……」
 紀久子はそう言って、遺書を懐にしながら自分の寝室のほうへ正勝を伴った。

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 寝室へ入ると、正勝はすぐまた紀久子の後ろへ手を回して、彼女のわなわなと顫えている赤い唇を求めようとした。
「待ってらっしゃいよ。わたし、着物を着替えてくるわ」
 紀久子はそう言って、正勝の顔を自分の顔の上から除《の》けた。
「着物を着替えてくるって」
「だって! あなたはベッドで寝て待ってらっしゃいよ。すぐだから」
「それじゃ……」
 正勝はすぐベッドへ行って横になった。
「おれたちの世界がようやく来たんだ。おれと紀久ちゃんとの世界が来たんだ。だれももう、おれたちの愛に干渉する者は一人もねえんだ」
 正勝は仰向《あおむ》きになって、独り言のように言った。
「すぐだからね」
 紀久子は微笑みながら優しく言って、部屋を出ていった。

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 寝室を出ると、
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