はそういって、女の手に握られてあった手紙を吉田に渡した。手紙といっても、何も書いてあるわけではなかった。十円札が十枚封じられてあっただけだ。しかし吉田は、そこから読みきれないほど沢山のことを読むことが出来た。
「吉田君! 君の知っている人なのかね?」
「青木っ! てめえの裏切りが、僕等四人を馘首《くび》にしただけじゃねえってことを、よく見て置け。ここにこうして死んでいる女は、僕が首切り賃をわけてやった女だ。それから、僕のほかの三人は、独身じゃねえんだぞ。女房もあり子供もある人間だ。てめえの裏切りが、何人の人間を干乾《ひぼ》しにするか、よく考えて見ろ!」
吉田は、手紙を握った手をズボンのポケットに突っ込みながら客車の方へ戻って行った。彼の眼は、潤んで、ちかちかと光っていた。
機関車は、線路工夫を呼ぶために夜明けの靄の中に非常汽笛を鳴らし始めた。
[#地から2字上げ]――昭和五年(一九三〇年)五月『週刊朝日』――
底本:「佐左木俊郎選集」英宝社
1984(昭和59)年4月14日初版
入力:大野晋
校正:しず
1999年9月24日公開
2005年12月19日修正
青空文庫作成ファイル:
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