の言葉の中には、自分もあの時に一緒に殺されてしまったほうがよかったという感情が多分に含まれていた。
しかし、雅子は病院の中で心臓を腐らしている吉本をただに恨み憎んでいるのではなかった。
――最近の彼女の吉本についての思い出は、たいてい彼を哀れむ感情に変わってきていた。自分と同じように、不幸だけを自分のものとして生き残っている前途の真っ暗な人間の、新鮮な空気に触れることのできない蛆《うじ》の湧きかけている心臓をそこに見いだした。
ことにも雅子は、発作症状から覚めたときの吉本の感情と意識とをとてもたまらないものとして感じた。
発作に襲われている間は全然意識を失っているのだから、感情を持たない人間として、死人にも同様になんらの同情も要さないわけなのだが、覚めているときの束縛感を思うと彼女は涙が出たりした。――そして、それが自分に発しているのだと思うと、彼女はわけてもたまらない感情に襲われるのであった。
気が狂うまで自分を愛してくれるなんて、世界じゅうにあの人ほど自分を愛してくれた人はいないのだ!――そういう思いは彼女をひどくセンチメンタルにした。それは三か月あまりの同棲《どうせい》
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