いか分からない気がいたしましたの。みんなわたしから起こっていることなんですから」
彼女はそして、彼の顔をまともに見ないように自分の膝《ひざ》の上に目を落とした。
「雅子さん! あなたは幸福なんですか?」
吉本は突然、思い出したようにしてそんなことを訊いた。
「さあ、どう言ったらいいんでしょう? 兄からそのことをお聞きするまでは、まあ、幸福だったかもしれません。でも、吉本さんのことをお聞きしてからは、わたし、なんだか幸福でなくなりましたわ。みんなわたしから起こったんだと思うと、どうしても幸福な気持ちにはなれませんの」
「永峯はいったい、ぼくのことをどう思っているんでしょうね?」
「永峯も、吉本さんのことはたいへん気の毒がっているんですわ。そして、永峯もやはり、自分から起こったことだと思っているんですの。自分が裏切らなかったら、吉本さんはどうもなかったように思ってるんですから……」
「じゃ、永峯はぼくが雅子さんを愛していたのを、知らなかったのかしら?」
「知ってはいたんでしょう。でも、自分のほうが吉本さんよりももっともっと……」
「それはだれだってそう思うだろうけれど……それで、雅子さ
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