街頭の偽映鏡
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)偽映鏡《ぎえいきょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)最近|丸《まる》ノ内《うち》辺りの
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1
偽映鏡《ぎえいきょう》が舗道に向かって、街頭の風景をおそろしく誇張していた。
青白い顔の若い男が三、四人の者に、青い作業服の腕を掴《つか》まれて立っていた。その傍《そば》で、商人風の背の小さな男が鼻血を拭《ぬぐ》ってもらっていた。
「喧嘩《けんか》か?」
その周囲に人々が集まりだした。
「何かあったんですか?」
偽映鏡の中に、無数の顔が歪《ゆが》みだした。
「喧嘩したんですね」
「いや! 気が変らしいんですよ」
「あの髪の長い男がですか?」
青白い顔の男はおりおり、長い頭髪をふさふさと振り立てていた。そして、周りの人たちを睨《にら》むような目で見た。
「どうしたんだ? どうしたんだ?」
巡査が群衆を掻《か》き分けてそこへ入ってきた。続いて、二人の男が汗を拭《ふ》きながら群衆の前に出た。
「喧嘩ではないんだな?」
巡査は自分の後ろについてきた男を見
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