を結んだのだった。同時に彼女はその奇蹟を部落中に流布《るふ》した。彼女は人間の願いを竹駒稲荷大明神に伝え、大明神の言葉を人間に受け次いでやると言うのだった。
祠は急に賑《にぎわ》い出した。或る農婦の、一昼夜も断続していた胃痙攣《いけいれん》が、その御供物《おくもつ》の一つの菓子でぴったりと止んだからだった。そして森の中には白い二本の大旗が立った。礼拝の人々は絶えないほどになって行った。緑の林の中に、赤、白、青、黄、紫の五色の旗が翻《ひるがえ》り、祠の屋根に黄金色《こがねいろ》の擬宝珠《ぎほうじゅ》が夕陽をうけて光り出した。そして賽銭《さいせん》が祠守りの生活を十分に保証し、山林や田畑を寄進する地主さえあった。
部落《むら》に移り住んで開業して以来、極めて流行《はや》らなかった湯沢医者は、最も科学的な自分の職業を捨てて、最も非科学的な女房の職業の下に寄食することになったのだった。彼は彼女と一緒に、昔の湯沢医院を捨てて祠の前に移り住んで行った。そして彼は、その豪壮な新邸宅ですることもなく手持ち無沙汰に暮らしていた。
竹駒稲荷大明神の祠は益々|賑《にぎわ》って行った。あの猟犬ジョンが死
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