途《みち》がなくなっていった。
そこで吾平爺が思いついたのは、ただ一人の娘である鶴代《つるよ》を奉公に出すことであった。それは吾平爺も娘の鶴代も、二人が共に飢えずに済むただ一つの思いつきであった。吾平爺のそういう思いつきは、娘の鶴代を売り残しておいたただ一つの品物を思い出すようにして思いつかせた。爺はいくらかの前借りをして、鶴代を東京のある下宿屋へ女中奉公に出してやった。そして、自分は日雇いの仕事を漁《あさ》り、それで娘からの仕送りを補ってどうにか暮らしていった。
しかし、娘の鶴代は半年あまりで帰ってきてしまった。吾平爺はひどく驚いた。鶴代は妊娠していたのであった。吾平爺は自分たちの生活について、まったく途方にくれなければならなかった。だが彼女は、その妊娠を慰藉《いしゃ》する意味で相手の男からちょっと纏《まとま》った金を貰《もら》ってきていた。吾平爺はその金を元手として、自分と娘の生活のためにもう一度奮い立たなければならなかった。
鶴代の貰ってきた金は一台の荷車と、それに満載する野菜を買い入れるのにちょうどだった。吾平爺は一台の古い荷車を買い、近所の農家から野菜を買い集めて、毎朝
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