迷惑になるのが分からんか?」
しかし、吾平爺はそのままそこに立ち停まってしまうわけにはいかなかった。いまそこに立ち停まることは、今後の生活のいっさいを立ち停まるのと同じだった。今日、もし時刻に遅れて青物市場に入場することができないとすれば、ただそれだけで彼のわずかばかりの資本はすべて消滅してしまうような結果になるのだった。爺は気が気でなかった。だが、映画俳優の来るのを気長に待っている人々のために示されたこのSTOPは、いったいいつまで続くのか分からなかった。それに、ここまで来てしまえば、もはやどこにもそこを避《よ》けて回り道をする道は一本もなかった。そうでなくてさえ、時刻はもう迫っていた。爺はそこを突っ切ってやろうと考えた。そこにどんな結果が待っているか、そんなことを考えている余裕などはなかった。爺は警官の目を盗むようにして、荷車を曳いたままいっきに駆けだした。
「やあ! やあ!」
「勇士! しっかり!」
群衆が叫びだした。そして、群衆の一角が崩れた。哄笑《こうしょう》! 罵倒! 叫喚!
「こらこらっ! 待てっ!」
警官が飛んできて爺の腕を掴んだ。
「いかんと言っているのが分から
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