「おい! おい! 眠っているのか? 大変なことになったぞ」
 和尚が回ってきて、そう言って二人を叩き起こしたのは陽が出てからであった。二人は呆気《あっけ》に取られて、怪訝《けげん》そうに和尚の顔を見た。
「どうもお遺骨らしいものが、二人分あるように見えるんだが」
 和尚は首を傾《かし》げながら言った。二人は驚いて立ち上がった。
「二人分?」
「どうも、二人分らしい」
 和尚はもう一度首を傾げて、焼き場のほうへ向き直った。
 焼き場は一坪ほどばかりが白い灰になっていた。そして、そこからはまだ細い煙が上がっていた。その中に爺の白い遺骨が少し腰を屈《かが》めた恰好《かっこう》で、雨ざれた枯木のように横たわっていた。――もう一人分の遺骨というのは、これは実に小さいものであった。吾平爺の遺骨の片腕ほどもないものだった。兎《うさぎ》の骨と思ってみれば、ちょうどそんな大きさであった。猫の骨と思われないこともなかった。しかし、その骨格がただ小さいというだけで人間の遺骨として疑わせないものがあった。それは吾平爺の遺骨の模型といってもいいほどであった。――それに、もしそれが人間の遺骨ではなく猫とか犬とかいったような動物の骨であるとすれば、焼跡にはきっと尻尾《しっぽ》の骨が魚の骨のような形で残っているはずだった。
「人間の骨に見えないか?」
 和尚はもう一度繰り返した。
「どうも和尚さん、これは人間の骨のようですね」
「おめえさんたちは、焼く前によく見なかったのかね」
「なーに、伝染病だっていうもんですから、あそこの娘が出して寄越した襤褸もなにも見ずに、はあ死骸《しがい》と一緒に焼いてしまったんでさあ」
 年寄りの人夫がそう答えた。
「それがいかんのだね。それが過ちの因《もと》というものだ。これはとんだことになっちまったもんだ」
「和尚さん! この小さいのだけ、どこかへ捨ててしまったらいけないでしょうかね?」
 若いほうの人夫が当惑そうな目で、和尚の顔を見ながら言った。
「とんでもない! 人間のお遺骨をそんなことしたら、それこそ罰が当たるというもんだよ」
「じゃあ、どうしたらいいんですかね?」
「とにかく、駐在所が立ち会うことになっているんだから、すぐ駐在所へ知らせなくちゃあ」
「おい! おめえ行ってくんろ。ようく旦那に事情を申し上げてな」
「とにかく、来てみてくれって、呼んでくらあ」

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