大變到來・太守父子一病一死・怒髮冠を衝く・不動祠祈願・奸女を倒す・身命塵埃・死の妙所・生の苦
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尚々御賢父樣御元氣の筈、宜しく御傳へ可[#レ]被[#レ]下候。
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秋冷相催候處、愈以御壯剛奉[#二]慶賀[#一]候。隨而小弟にも無異《かはりなく》罷在、當分は宿替《やどがへ》にて獨居いたし、間々《まゝ》夢中には貴丈《あなた》に御逢申上候。偖大變到來仕、誠に紅涙にまみれ、心氣|絶々《たえ/″\》に罷成、悲憤の情御察可[#レ]被[#レ]下候。もうは御聞及の筈と奉[#レ]存候、先々月|晦日《みそか》より、太守樣俄に御病氣不[#二]一と通[#一]御|煩《わづらひ》、大小用さへ御床之内にて、御|寢《やすみ》も不[#レ]被[#レ]爲[#レ]成、先年の御煩の樣に相成模樣にて、至極御世話被[#レ]成候儀に御座候。若殿《わかとの》樣には去廿三日晝九ツ時より御|瀉《くだ》しにて、晝の内十二度夜二十五度位の儀にて、八ツ時終に御卒去被[#レ]遊候段、我々式は翌朝承候位にて、殘念如何とも申樣のあるものにて無[#二]御座[#一]候。思へば/\髮《はつ》冠《かむり》を突《つ》き候。太守樣にも至極御氣張り被[#レ]遊候御樣子も被[#レ]伺申候。又此上御|煩《わづらひ》重《おもり》候ては、誠に暗《やみ》の世の中に罷成儀と、只身の置處を不[#レ]知候。只今致方無[#二]御座[#一]、目黒の不動へ參詣致、命に替て祈願《きぐわん》をこらし、晝夜|祈《いのり》入事に御座候。熟《つら/\》思慮《しりよ》仕候處、いづれなり奸女をたをし候外無[#レ]望時と伺居申候。御存の通り、身命《しんめい》なき下拙《わたくし》に御座候へば、死する事は塵埃《ぢんあい》の如く、明日を頼まぬ儀に御座候間、いづれなり死の妙所を得て、天に飛揚致、御國家の災難を除き申度儀と堪兼候處より、相考居候儀に御座候。心中御察可[#レ]被[#レ]下候。實に紙上に向て、此若殿樣の御儀申述難く、筆より先に涙にくれ、細事に不[#レ]能[#レ]及候。眼前奉[#レ]拜候故、尚更難[#レ]忍、只生きて在るうちの難儀さ、却て生を怨み候胸に相成、憤怒にこがされ申候。恐惶謹言。
  八月二日[#地から2字上げ]西郷善兵衞
 福島矢三太樣
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(按)翁の始て江戸に出づるや、四月庭方役となり、屡々齊彬公に謁し意見を陳述す。六月公疾あり、閏七月世子虎壽丸夭折す、呪詛或は毒殺の風説あり。翁は樺山三圓・有村俊齋等と大に憤慨す。此書牘は其當時在藩の同志に寄せたるものなり。福島矢三太は翁が大久保・有村の諸士と伊東猛右衞門に從うて陽明學を修めし同志の一人なり。早く歿したるを以て名を成すに及ばざりき。
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     東湖震死の報

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杖とも柱とも・何事も此れ限り
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一筆啓上仕候。時下寒氣相|募《つのり》申候處、御一同樣先以御機嫌能御暮被[#レ]爲[#レ]遊候由、幸賀之至り此事に奉[#二]存上[#一]候。隨而私事無異消光仕居候間、乍[#レ]恐左樣御安心可[#レ]被[#レ]成候。扨而《さて》此の二日の大地震は前古|未曾有《みぞう》にて、御同樣杖とも又柱とも頼《たより》に致居候水戸の藤田戸田之兩雄も搖打《ゆりうち》に被[#レ]逢、黄泉《よみぢ》の客と被[#レ]成候始末、如何にも痛烈之至り、何事も此ぎりと旦暮《あけくれ》愀悒《しういう》嗟嘆《さたん》相極め居候、御深察可[#レ]被[#レ]下候。不[#二]取敢[#一]御急報申上度|荒々《あら/\》如[#レ]此御座候。恐々不盡。
  十月六日[#地から2字上げ]西郷吉之助
 大久保一藏樣
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尚々君公益御機嫌能、澁谷御屋敷へ被[#レ]爲[#レ]入候。上屋敷は迚も御居住出來兼申候。兎に角一大修理を要申候、御賢察可[#レ]被[#レ]下候。
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(按)安政二年十月二日江戸大地震あり。藤田東湖震死す。右は此時の書信に係る。鹿兒島市川上四郎兵衞所藏す。
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     獄中の消息

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英艦來襲・君を思ひ祖母を懷ふ・無鳥郷の蝙蝠・學者の鹽梅にて可笑し・學問は御蔭にて上る
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尚々御煙草御惠投被[#二]成下[#一]、難[#レ]有御厚禮申上候。
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改年之御吉慶、御超歳被[#レ]遊[#二]御座[#一]、恐悦之御儀奉[#レ]存候。隨而私事無[#二]異儀[#一]獄中に消光仕申候間、乍[#レ]恐御安慮被[#二]成下[#一]度奉[#二]合掌[#一]候。陳ば去年七月|炮戰《はうせん》之|騷動《さうどう》御座候由、扨々
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