に推すに公平至誠を以てせよ。公平ならざれば英雄の心は決して攬《と》られぬもの也。
三六 聖賢に成らんと欲する志無く、古人の事跡を見、迚《とて》も企て及ばぬと云ふ樣なる心ならば、戰に臨みて逃るより猶ほ卑怯なり。朱子も白刃を見て逃る者はどうもならぬと云はれたり。誠意を以て聖賢の書を讀み、其の處分せられたる心を身に體し心に驗する修行致さず、唯|个樣《かよう》の言|个樣《かよう》の事と云ふのみを知りたるとも、何の詮無きもの也。予今日人の論を聞くに、何程尤もに論する共、處分に心行き渡らず、唯口舌の上のみならば、少しも感ずる心之れ無し。眞に其の處分有る人を見れば、實に感じ入る也。聖賢の書を空く讀むのみならば、譬へば人の劒術を傍觀するも同じにて、少しも自分に得心出來ず。自分に得心出來ずば、萬一立ち合へと申されし時逃るより外有る間敷也。
三七 天下後世迄も信仰悦服せらるゝものは、只是一箇の眞誠《しんせい》也。古へより父の仇を討ちし人、其の麗《か》ず擧て數へ難き中に、獨り曾我の兄弟のみ、今に至りて兒童婦女子迄も知らざる者の有らざるは、衆に秀でゝ、誠の篤き故也。誠ならずして世に譽らるゝは、僥倖の譽也。誠篤
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