意思がある抔いふ道理のあらう筈がない、獨り人間のみには有限的意思がある抔考へるのは大なる謬見である、博士はウント氏を贊して自己の屬する國土、時世並に四圍の状况等の如き凡て自己が關係する境遇の事は吾々の自由意思で以て如何とも左右することは出來ぬけれども其他の事に至ては凡て自由に左右することが出來ると論じ吾邦の對清對露の大勝や東郷大將の露艦全滅抔の例を擧げて説て居るけれども余は甚だ其理由を解することに困む[#「困む」はママ]のである、余輩不自由意思論者は右の如く人間にも身心ともに微塵も自由はないとするのであるから意思の起るのも全く已むを得ざる動機が原因となるのに外ならぬとする、而して其已むを得ざる動機は如何に生ずる乎といふに是れは一には父祖の種々の遺傳と又一には自己が外界の状况(博士が國土、時世、周圍の状態等と言へる類なり)に應化することに依て生ずるのである、それゆへ意思が決して自由に起るものでなきのみならず其意思を産み出す動機も亦同く已むを得ざる理由から生ずるのである。
 評者又曰然るに自由意思論者が意思を自由なるものと考へるのは全く選擇の自由(Wahlfreiheit)といふものがある
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