閉された部屋の中に兇器とおぼしいものは何一つないものだから、他殺であろうと考えられる。或はゴム紐の一端に結びつけられた銃器でもって自殺を計る。手を離すと一緒に銃は煙突の中に飛び込んで見えなくなる。このトリックの変種として(これは密室事件ではないが)錘《おも》りのついた紐をピストルに結びつけておいて、発射後橋の欄干を越してピストルを水中に没せしめた例もある。また同じようなやり方で窓越しに戸外の積雪の中に銃器を飛びこませて了う。
(五)、錯覚と変装の助けにより遂行される殺人。まだ――無事でいると思われている男が事実は既に部屋の中で殺されている。犯人は被害者の如く装い、或は背後からそれと見誤まられるなりして、ドアの中に急いではいる、とすぐさま扮装を解いて引返す。これでこの男は前の人物とすれちがって出て来たもののような錯覚を起させる。後刻屍体が発見された時この男にはアリバイがあるし、殺人はこの贋物《にせもの》の被害者が部屋にはいって後行われたもののように考えられる。
(六)、室外にいた者により行われた殺人なのが、室内にいた者により行われた如く見られる場合。

「これを説明する際」とここでフエル
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