・マーダー・ケース』終り近くに羅列される重要ファクターの箇条書から受ける感じと一寸似ているが、挑戦の面白味も一《ひ》と際《きわ》増して来るのと、読者の側になんとなく落着いた気分が与えられて来るのとでその挿入が甚だ時宜を得ており、非常に効果的であると思って感心した。しかしこの一章は、もともと研究的色彩に富んでいるもので、そういう切迫した雰囲気とは全然切り離し、独立的に取出して来てみても充分に読み応えはあろうと思われる。それで以下、適宜抄訳意訳に簡単な註釈も加え御紹介しておきたい。
まずフエル博士は、作者カーに代って次のように語り出す。
「一部の人々は、自分達が怪奇的色彩を帯びた作品を好まないものだから、そうした自己の好みを以ってすべてを律しようとし、気に入らぬ作品はきまって、こんな話は実際にありそうにもない、といって非難する。ひいては、この人々は他の人々にも、実際にはありそうにもない、ということはつまり感心出来ない探偵小説を意味するのだと、考えさせるようにしてしまう。けれども、探偵小説を貶《けな》すのに、ありそうにない、尤もらしくないなどという言葉を使うのは、とりわけ当を得ていないの
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