博士は云う。「この種の殺人を僕は遠距離犯罪、或は氷柱弾犯罪という名で一括して分類していいと思う。氷柱を利用する場合の一例は前に挙げたからこの意味はよく判るだろうと思う。ドアには錠がおりていて窓は犯人が忍び込むには狭すぎる、而も被害者は一見部屋の中で刺されたものらしいのに兇器は見当らない。即ちこの場合には外部から氷柱を弾丸として発射したのだ。実際にこれが成功するかどうかは論じないとして、とにかく弾丸は溶解してなくなってしまう。探偵小説でのこのトリックの発案者はアンナ・カサリン・グリーン女史であったと思う。女史の作『イニシャルズ・オンリイ』がそれだ。
 右の着想と同種のものに、この氷柱の兇器が銃により発射されたり、投げつけられたり、或はまた、かの四十面相と呼ばれた素晴らしい人物ハミルトン・クリークの冒険の一つにあったように、石弓から射出されたりなどする。
 溶解性の兇器には尚おこの外、
 岩塩で作られた弾丸、
 血液を凍らして作った凍血弾丸、
なども出て来る。
 室外にいた者の手で室内で行われる犯罪方法には、この外、
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――薄手の長剣を差し入れて刺したり、
――あまり細い刀で刺されたので傷ついたことに気が附かず、そこから他の部屋に歩いて行き、錠をおろしてから倒れたりなどする。
――問題の部屋の窓には下からは到底近づけない、だがこの窓から顔を差し出させるように仕向ける。さて顔を出した所をお馴染の氷塊を落下させ頭部を紛砕する。ドアはしまっており、窓には絶対に近寄る道がないのに、被害者は部屋の中で頭を割られて死んでおり、兇器は見当らない、という結果になる。
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 この分類の所に(或は(三)の中に属するかもしれないが)毒蛇、毒虫による殺人も挙げることが出来よう。蛇は箪笥とか金庫とかの中に隠しておくことも出来るし、更には花瓶とか書籍の間とか、シャンデリアの上とか、ステッキの中とかにも隠しておくことが出来る。サソリの形に彫られた琥珀のパイプを口に持って行こうとすると、それが本物のサソリになっている、という例に出くわしたことさえある。
 密室内で演じられる殺人中最も遠距離よりの殺人として、探偵小説の歴史に現われている素晴らしい短篇小説の一つをここで推薦しておこう(実際この作品は、トーマス・バークの『オッターモール氏の手
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