ずれも紐を使うことは同じである。(訳者註・ハーバート・ゼンキンスの短篇集『マルコム・セージ』の中の一篇にこのトリックの典型的なのがある)
(二)、錠前も閂もいじらずに唯ドアの蝶番《ちょうつがい》を外す。――これは学校生徒達が鍵のかかった戸棚から物を盗み出そうとする時によく使う手である。
(三)、閂に工夫をして密室とする。――ここでもやはり紐が使われる。道具はこの紐の外ピンと縫針である。このピンをドアの内側の所に刺し、梃作用に[#「梃作用に」は底本では「挺作用に」]よって外部から紐をかける。糸は鍵穴を通して使われる。(フィロ・ヴァンスがこれを大変うまく使ってみせてくれた)
紐を使ってもっと簡単な方法がある。尤も前の程効果的ではないが。これは長い紐の一端に、はげしく引張れば解けて来る結び方の輪を一つ作っておき、この輪をボルトの把手にかける。他端はその儘ドアの下から室外に出す。こうしておいて外からドアをとじ、紐を右に引くなり左に引くなりしてボルトをかけるのである。あとは紐を強く引張れば輪が解けて落ちるから室外へ引き出せばよい。(訳者註・イサベル・マイヤース女史の『マーダー・イエット・ツウ・カム』にこの方法が詳しく書いてある)
(四)、押錠をいじる。――これは大抵の場合押錠の下に何かを支えにおいておく。これをドアをしめてから室外で引張ってはずし、かけがねを落下させるのである。この方法で一番いいのは例の有難い氷を使用するやつで、氷柱を紐の支えにしておくと、これが溶けると同時に紐が落ちてかかる。またドアがはげしく閉されると一緒に只それだけで内部で錠がおりる、という場合もある」
『三つの棺』に挿入されたカーの密室犯罪の研究は大体以上で終っている。
[#地付き](「月刊探偵」一九三六年五月[#「一九三六年五月」は底本では「一九三二年五月」])
底本:「「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9」光文社文庫、光文社
2002(平成14)年1月20日初版1刷発行
初出:「月刊探偵」黒白書房
1936(昭和11)年5月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2008年11月11日作成
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