多くのお客がその寄席へ呼ばれた。いよいよ打倒派、躍気とならずにはいられなかった。
 ちょうどそのころ。春風亭柳枝が、若き圓朝に一大痛棒を加えんとした場面が、「圓朝花火」というかつての私(注・筆者)の短篇小説に叙されているから、勝手ながら左へその一部を抄《ぬきがき》させて貰おう。

 ――スルスルスルと蛇のようにあがっていった朱い尾が、かっと光りを強めたかとおもうと、ドーン、忽ち大空一ぱいに、枝垂柳《しだれやなぎ》のごとく花開いた、つづいて反対の方角から打ち揚げられたは真っ赤な真っ赤な硝子玉《びいどろだま》で、枝珊瑚珠のいろに散らばる、やがて黄色い虹に似たのが、また紅い星が、碧い玉が。
「玉屋」「鍵屋」
 そのたび両国橋上では、数万《すまん》の人声が喚き立てた。

 まずこうした両国川開きの情景からこの拙作短篇は始められていたのであるが、その晩珍しく内気で引っ込み思案の小糸が清水《きよみず》の舞台から飛び下りた積りで晴れがましくも圓朝とただ二人、花火見物の屋根船と洒落込んだ。

 然るにそうしたせっかくの千載一遇の歓会なのに、とかく、圓朝はふさぎ込んでばかりいる、何話し掛けても生返事ばか
前へ 次へ
全268ページ中233ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング