小説 圓朝 あとがき
正岡容

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)擒《とりこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)古川|緑波《ロッパ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]作者
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 昨夏四十有余枚書きだした『圓朝』はあまりにも伝記の擒《とりこ》となってしまっていたため、こころに満ち足らわず、ハタと挫折したまま八月九月十月十一月と徒《いたず》らな月日が立っていってしまった。十一月末日、修善寺へ。そこの湯宿の一室にして、年少の日の圓朝が切磋琢磨の修業の上に自分自身を見出したことによって初めて私は、豁然と音立てて心の壁の崩れ落ちるものを感じた。間もなく今度は一気呵成に書き上げてしまうことができた。
 でもその日のくるまで、どれほど輾転、反側したことだろう、私は。
 こうしたいらいらしていた私の明け暮れを、古川|緑波《ロッパ》、高篤三の二友がそれぞれの時と所で心から慰め励ましてくれたしみじみとした友情を忘れられない。古川君は警戒管制で厚く戸を閉め切った有楽座九月興行の楽屋で、そうして高君は銀座某百
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