》で、枝珊瑚珠《えださんごだま》の色に散らばる。
やがて黄色い虹に似たのが、また紅い星が、碧《あお》い玉が――。
「玉屋」
「鍵屋」
そのたび、両国橋上では、数万の人声が、喚《わめ》きたてた。
夜目にも真っ青い大川が船と人とでぎっちり埋まり、猪牙《ちょき》、屋根船、屋形船、舟と舟との間を抜け目なく漕いで廻るうろうろ舟、影絵舟まで、花火のたんび、紅緑青紫と塗られていく。万八、河長、梅川、亀清、柳屋、柏屋、青柏、大中村と、庇を連ねた酒楼《おちゃや》でも、大川筋へ張り出した桟敷《さじき》へ、柳橋芸者に綺麗《きら》を飾らせ、空の一発千両と豪華のほどを競い、争っている。まったく今夜ばかりは松浦侯の椎《しい》の木屋敷と首尾の松の一角が、わずかに両岸で闇を残しているのみで、
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長橋三百丈[#「長橋三百丈」に傍点] 影偃緑波中[#「影偃緑波中」に傍点]
人似行天上[#「人似行天上」に傍点] 飄々躡玉虹[#「飄々躡玉虹」に傍点]
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という江戸名物の川開きに、満都が酔い尽くしている有様だった。
「ねえ、おッ師匠《しょ》さん。そう花火にばかり見恍《み
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