いた勇齋が一応伴蔵に疑いをかけ、天眼鏡で伴蔵を見ようとするのはいかにも易者らしくて愉快である。昨夏、歌舞伎座で六代目が上演した半七捕物帳の「河豚太鼓」は宇野信夫君の脚色であるが、さすがに宇野君も六代目の易者をして河豚にやられて悶死する一刹那、「死ぬか活きるか、占ってやれ」と自ら苦しみながら筮竹を握って自分自身の運命を占うの可笑し味があった。手練の作家の技巧というもの、ついに究極においては一致するものといえよう。この顛末を勇齋が良石上人へ報せにゆくと、「側に悪い奴が附いていて、また萩原も免れられない悪因縁で」とつとに上人見破っているばかりでなく、盗まれた仏像も「来年八月には屹度《きっと》出る」などと喝破しているところ、いかにも神秘的な存在で羅曼《ロマン》的な興味が深い。
「伴蔵は悪事の露顕を恐れ、女房おみねと栗橋へ引越し、幽霊から貰った百両」で荒物屋を始める。これがトントン拍子に当る。いう目がでるので奢りに長じて伴蔵は、だんだん茶屋酒に親しむようになる。はしなくも土地の料理屋で、女中となっていた飯島の妾お国とわりない仲となる。どうしてお国はこんなところでこんな茶屋奉公なんかしているのだろう。話はこうだ。あの晩、手負いの平左衛門は孝助を逃がしてやったのち、姦夫姦婦のところへ斬り込んでいった、そして源次郎に手は負わせたものの、トド彼らのため、滅多斬りに斬殺されてしまった。で、有金をさらって逃げた二人は、ひとたびお国の郷里越後へ走ったが実家絶えてなく、拠所《よんどころ》なく栗橋まで引き返してきたとき、飯島に突かれた傷が痛みだし源次郎はドッと寝込んでしまった。ついにその日に困ってお国は茶屋奉公に。かくて伴蔵と結ばれたというわけなのである。でも、結ばれたのは単にお国と伴蔵ばかりでない、十七席を重ねてきたAB二つの因縁因果物語もまたこの二人の結ばれによってはじめて一心同体と結ばれたのである。
 その結果、伴蔵の女房おみねは夫の不身持《ふみもち》を怒って、果ては嫉妬半分お前が「萩原様を殺して海音如来のお像を盗み取って、清水の花壇の中へ埋めて置いたじゃないか」と声高に罵るようになる。ここにおいて我々はお像を盗み取ったばかりでなく彼、伴蔵、日頃、厄介になっている新三郎を殺害したことを初めて知って事の意外に驚くのである。同時に今にしてお露お米にお札を貼がしてと頼まれたとき、お前様方を中へ
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