ら水着のまゝさか[#「さか」に傍点]で大川へ飛び込んで、浜町の伊東まで、流れたことがよくある。――一度は花火の時に、この欄干が中程から人出の重圧に折れて、大分怪我人を出したことなどあつた。その事件の明くる日のぼくの記憶は、橋詰の左右の空地に――第三図でいへばコーモリをさした女のゐるあたり一面――下駄や草履が山と積まれた奇観であつた。
その同じ奇観はまたいつも毎年出水の時には、似たやうな状態が繰り返されたものだつたが、川の水かさのこんもりと増した急流の中を、ぐるぐる回りながら馬が流れて行くのを見たことがあつたし、大きな藁ぶき屋根も流れて行くのを見たし、岸近くの水中には、ワラだの草だのゴミだの、逆さになつた下駄やごみとりなどがらくたが一杯たまつて、岸の近くはゆるゆる流れながら、その流れるものゝ上にまた一杯に小さい真青な雨蛙が乗つてゐた。
第三図は橋詰の南寄りであるが、この反対側の北寄りには、一劃の砂利置場を隔てゝ、蔵造りの寄席の新柳亭がその一角だけ川中へ突出してゐたのは面白い風致だつた。その後東京にはかういふ不規則の面白い風景はどこにも無くなつた。――そしてこれもやはり風致が無くなると
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