ものでもネルに似通ふなだらかな切地を好む)――それ等の場合は、そのあり得る「美」から享ける感じがどうも少々「淫美」で、それもその「淫」が「形ち」の風情に融けてゐるといふわけのものでなく、なまじつかでいけないと思ふ。甘くていけないと思ふ。
 もつともかういふには、凡て私が絵かきだといふところは、ぬきさしならぬ形ちの判断の立場だ。――何れにしても、近頃一般の風俗は、概しておもしろくない。外国的、即ち曲線美ならば、曲線の味感で何とか徹底してくれたら、また面白からうと思ふけれども、近頃の大勢では、やゝもするとそこが極めて中途半端で、それ故うす着の女装はどうかすると美よりは形ちなき実感の方へと思ひを誘ひやすく、卑俗で気にいらない。
 今時は浴衣の浴衣的美感を見るには、その点は商売人の芸妓か、又は、町の下づみのおかみさんや娘達ならば、相変らず仕来り通りに浴衣は「美しく」着こなされてゐるであらう。――既でに服装の大勢ではなくして一部の影となつた。しかしそれは直ちにその装をとつて絵になる、といふ意味で、美術の「美」にかけて、あの平凡なものは矢張りそれが一番美しいといふ。

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後記=この文章は元来大正十二年の七月にかいたものを補修したが、近々四半世紀の間に「下づみのおかみさんや娘達」も改装して「浴衣」は忘れられ、美感は変らうとしてゐる。(昭和二三年秋誌)
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底本:「東京の風俗」冨山房百科文庫、冨山房
   1978(昭和53)年3月29日第1刷発行
   1989(平成元)年8月12日第2刷発行
底本の親本:「東京の風俗」毎日新聞社
   1949(昭和24)年2月20日発行
入力:門田裕志
校正:伊藤時也
2009年1月6日作成
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