味感のきりつと締まる、そこから粋も渋さも出て来るそれにも合ひ、私は矢張り浴衣には直条模様のものに賛成である。
 或ひはいつさう、みぢんにしてしまふか、小紋のやうなものにするか、絞るか、――実は先頃、草葉染のために少し浴衣地をかいて見たが、机上案と仕立てた実地とでは、うまくゆくかどうか?……、私は大体以上にいつたやうなところから、ちつとも珍らしくもこと新しくもない様ながらばかり描き、たゞ少し当世風にしたつもりは千筋なり、何んなりに在来のものより線に柔らか味を多少持たせて見た。――

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後記=これも大正十二年五月稿のものを補修したのであるが、文中に「バラック」とあるが、今もその文字通り読めて別にをかしくないのは、東京は近年に、相次いでひどい破壊を受けたものだつた。この文の中のバラックは、震災後のものの意味である。
 私は自分がかいた草の葉染浴衣地の、これを着た姿の人を、見て見たいと思つて、当時電車の中など、それとなく注意したものだつた。しかし殆んど見られなかつた。あとで聞くと、さうして或る一定の浴衣地等々を町の乗りものなどでも散見するやうになるためには五千反以上、万と
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