へば貧弱な鉄骨の橋――たゞ少くも重たい邪険な感じはしなかつたから、どうやら「やなぎばし」らしいものだつた。勿論、元々の柳橋は木の橋である。(井上安治の写した図で見ると、元の木橋時代の姿は極く簡素に欄干の小間が斜にぶつちがひの太い木組で出来てゐる。)
[#「江戸の柳橋」のキャプション付きの図(fig47732_01.png)入る]
 井上安治も柳橋の図はその木橋の姿と、それから架け替へになつた文明開化の鉄橋ぶりと、二つ描いてゐる。――安治には第二の鉄の柳橋は珍らしかつたわけだらう――しかしわれわれには、柳橋は開化の鉄橋姿で初めから見参したので、今から思へばそれが懐かしいものになつてゐる。
 余談に渉るが「さういふこともあるかなア」と人に思はす程度の、話材を示す意味で、仕事に関する柳橋のことを一寸こゝに述べて見よう。それはかれこれ小十年前になるが、ぼくはある新聞で、田中貢太郎氏の小説「情鬼」の插絵を受持つたことがあつた。そのある一図に、作中人物が柳橋を渡るところがあつたのであるが、ぼくは何の気なしに幼少熟知する鉄の柳橋を絵に描いて――ふと、心ついたのは、その小説の年代[#「年代」に傍点]の
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