くまでの東海道中を、十八節に仕切つた、相当長いものであるが、今となつては、一九の膝栗毛や、川柳の末摘花を完全に解説出来れば、堂々たる文学ハカセだといはれるやうに、このうたも完全に解説が附けられゝば、取つて以つて広重の保永堂版版画にも裏附けとなる、文献が出来上るわけだらう。
 ましてこの道中唄には、先づ江戸から京へと「上り」があると同時に、向うからの「下り」もある。「上り」はやゝ一般にも伝唱されるが「下り」はほとんどいん滅してゐた。それを掘り出して、すでに廿年かれこれの昔とはなつたが、ある人から私にうつしを寄託されたものがある。この機会にそれを「虫ぼし」のわけで上下そろへて復刻しておくのは、古物保存の意味だけでなく、「その行文を味ふ」面白さからいつても、私の手記の文章などより数等上の、よきよみものとなるだらう。節はラヂオなどにこの頃でも時々放送されるから、かへつて歌の本文よりなじみ[#「なじみ」に傍点]が多いだらう。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
一、お江戸日本橋七ツ立、初上り、あゝこりやこりや。行列揃へて、あれわいさのさ、こちや、高輪、夜明けの、提灯消す。こちやえ、こちや
前へ 次へ
全68ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング