の俎上に乗つて来て、銀座の露店では率先して(昭和廿二年五月三日、新憲法施行の日から)全商品の一割引きを実行するものもあるといふ。
良い意味で世の中はこの「五月三日」を境に、立変らなければならないだらう。
この日、われわれの陛下は、「象徴」となられて、国政の現役線を退かれ給ふ。象徴となられる陛下に対しては、新しい、より親しい日本国民の敬愛があるはずである。陛下は五月三日の式典に当つて、雨外套を召され、左手に御自らコーモリ傘をさゝれ、右手に中折帽をとつてこれを打振られながら、三年前まではこの国で絶対に想像さへ出来なかつた「陛下」――生き生きとして新鮮な、われらの陛下のカタチで、壇上から人々に向つてあいさつなすつたが、ひどくこの朝は寒い、気温が平常より十度も低かつたといはれる日で、式の始めから終りまで冷雨小止みなく、広場に集まつた者は陛下の出御までは、何れも傘をさしたまゝ、外套の襟も立てゝ諸員の式辞あいさつを聞いた。尾崎さんはこの雨は天の戒めだと考へたといふが、恐らくその通りであらう。五十八年前の旧憲法発布の日、明治廿二年二月十一日は、夜来の雪で、道がひどくぬかつてゐたといふ。それにも拘
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