道の心常に熾んな人の、それが懐ろ手をしてたゞ絵の勉強だけをして居ればよい小杉少年ではなかつた以上、先づ印刷刊行のものに向つて絵の仕事をすること、同時に文の仕事をすることが、小杉さんの前に展ける一路の公道であつたらうことは、極めて自然だつた。それで小杉さんは大いに、草画を描きまた大いに文章をかいたのである。小杉未醒[#「小杉未醒」に傍点]が当時雑誌や単行本で「かきまくつた」ものの数は、汗牛充棟もたゞならないとよくいふ、正に今これをぞつくりと目の前に積まれゝば、驚くべき嵩になるだらう。
 逆にこれを今から歴史風にいひ返せば、わが「小杉未醒」はそれでさしゑ及び漫画の先達といふことになつてゐるけれども、これは若い小杉さんの当時ひとりでに迸つた才能だつた。勿論並ならぬ努力はあつたに違ひないが、別段期してさしゑなり漫画に先達の道を展かうとしたわけ合ひとは思はない。ある程の仕事、来る程の仕事を、片つ端から「退治た」業績と見るべきものである。結果としてこれが、儕輩を抜いて水際立つたといふことが、いやおうなくといはう、小杉未醒を、さしゑ画家、漫画家の大に仕立てた。――そしてこゝに小杉さんの「初期」が始つ
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